なぜ女性は歌舞伎をやれないの?

歌舞伎はなぜ、男性だけで演じるのでしょうか?

「キマリだから、男しかできない」って言われても、理不尽!って思いませんか?
なぜこのような形になったのか、その歴史を紐解いていきましょう。
そして、これはずっと変わらないのでしょうか? 未来の歌舞伎のカタチはどうなるのでしょう?

歌舞伎を最初に始めたのは、女性

世の中に、「当初は女性に禁じられていたが、今は女性もできるようになった」というものは数多くあります。
たとえば女子マラソンなどは、つい最近まで「女性に40キロ以上走らせるなんて、無謀」という理由でやらせてもらえませんでした。他に、お医者さんも、女性はお産婆さん(助産師)にはなれても、医師にはなれなかった時代がありました。

演劇の世界でも、「女優」という職業ができたのは歴史的にかなり後。シェイクスピアの演劇も、当時はオールメール。今の歌舞伎と同じく、男性ばかりでした。現象だけ見ると、イギリスも日本も同じかもしれません。

でも、歌舞伎はそれとちょっと違う。最初に歌舞伎踊りを始めたのは、出雲の阿国という女性だったんです。

では、なぜ今の歌舞伎には女性がいないのか?

江戸時代の「野郎歌舞伎」が続いて今の形に

最初は男女が同じ舞台に立って演じていましたが、それが風紀上よろしくない、ということで禁じられたのです。それで、シェイクスピア時代のイギリスと同じように、女性役は少年が演じるようになりました。

でも…これも結局、美少年との恋愛模様が「風紀上よろしくない」ということになり…
「少年だからよくない。成年男子にしろ」というお触れが出たのです。
少年と成年と何が違うか、というと、元服前の少年は、前髪があり、前髪を剃った月代(さかやき)の髪型が大人の男の証拠でした。前髪の美少年は、女性と同じように色気を感じた、ということなのでしょう。

それで成年の男子が女性の役をやる「野郎(やろう)歌舞伎」が始まりました。今の歌舞伎は、その流れを汲んでいます。

「女性にはできない」という思い込みは捨てよう

今は「女優」という職業もありますし、同じ舞台に男女で立つことが禁じられているわけではありません。「歌舞伎に女性が出てもいいじゃないか」と思われるかもしれません。

実際、日本映画全盛で歌舞伎の人気が衰えていた昭和40年代ごろは、新派の舞台に歌舞伎俳優が出るように、歌舞伎の作品に女優が配役され歌舞伎座の舞台に立っていたこともあるのです。

また地方の地芝居では、現在多くの女性が歌舞伎の舞台に立っています。作品によっては40キロ以上にもなる衣裳や鬘を身につける体力など、女性が恒常的にプロの舞台に対等に立つまでには、まだ時間がかかるかもしれません。でも近い将来、プロの歌舞伎の世界にも、きっと女性が進出する日がやってくるだろうと私は思っています。名女優の山田五十鈴さんが「車引(くるまびき)」の「梅王丸」(*)に扮した写真などを見れば、問題は男女の区別ではなく、才能と熱意、そして鍛錬の有無がすべてだとわかります。

(*)「菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅ・てならいかがみ)」の一場面。梅王丸・松王丸・桜丸の三つ子が登場。それぞれ隈取をして豪快な見得を披露する。

歌舞伎の特徴・男性の「女方」との共存が大きな課題

ただその場合、400年の歴史が紡いだ、女性なしで演じる技術という独自に発展した「歌舞伎」という様式の中で、「本物の女性と女方とが、違和感なく「女の役」として並立できるか」という点は、大きな課題になるでしょう。
逆に、本物の女性と男性による女方の違いを、うまく生かしたキャスティングができるか、という点にも注目が集まるかもしれません。

実際、美輪明宏が演じる「黒蜥蜴」や「双頭の鷲」を見れば、それは可能だと確信しますし、「天井桟敷の人々」のガランス役を日本人で誰ができるか考えた時、「女方」という俳優の持つ、本当に類まれな技量と演技の大きさは、絶対に絶やしてはいけないと思います。

日本には宝塚歌劇というものも存在し、宝塚の男役トップは退団すると女優になるのが一般的でしたが、最近はOGとして「男役」としての活躍の場も増えてきました。

私たちが長い歴史の中で生み出し、育て、確立した文化です。「ジェンダー平等」というイデオロギーのみを押し通すような安易な形で失ってしまわないように、注視していきたいです。

歌舞伎の未来を見据えて

とはいえ、日本の少子高齢化と、伝統芸能を目指す人々の減少を考えれば、すでに「男子しかできない」などと悠長なことは言っていられないのではないでしょうか。歌舞伎を愛する人であれば、女性であれ外国人であれ、やがて受け入れられていくのだと私は思います。特に国立の研修所いついては、舞台に出る出ないは別として、技術の伝承のためにも女性に門戸を開いてほしいと切に願っています。

2023年10月、寺島しのぶが歌舞伎座に出演したことが話題となりました。その件について、配信で語っているのでそちらも併せてご覧ください。画像をクリックすると配信が見られます。開始から16分くらいから、寺島しのぶさんが出演した「文七元結物語」について話しています。
↓↓↓

また、こちらはメンバーシップ限定ですが、「女性が歌舞伎を演じることについて」率直に語っています。
こちらも画像をクリックすると配信が見られます。月額300円です。
↓↓↓

「歌舞伎を観てみたい人のためのビギナーズガイド」

もっといろいろ知りたくなったら、
すぐに役立つ「歌舞伎を観てみたい人のためのビギナーズガイド」(kindle)はこちらから!

目次

Q1 歌舞伎は観る前に予習が必要ですか?
Q2 歌舞伎は着物で観にいくもの?
Q3 歌舞伎のチケットは、どこで買えますか?
Q4 歌舞伎のチケット、高くないですか?
Q5 なぜ、チケットの値段に差があるの?
Q6 「とちり」の席ってどんな席?
Q7 「東西の席」ってどこですか?
Q8 なぜ歌舞伎役者はオーバーアクションなの?
Q9 黒装束で役者をヘルプする人は「くろご」?「くろこ」?
Q10 「女形」と「女方」どっちが正しい?
Q11 なぜ女性は歌舞伎をやれないの

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

カテゴリー

TOP