菅原道真の時代に「寺子屋」はあるのか

昨日に続いて、
夜の部の「寺子屋」のレビューを書きたいのですが、
今日はその前に、
私が歌舞伎を見始めたときの率直な疑問について書きます。

「寺子屋」は
「菅原伝授手習鑑」という、いわば大河ドラマ、連続ドラマの中でも
非常に人気のある場面です。
でも「寺子屋」って江戸時代の塾のことですよね。

菅原道真は平安時代の人なのに、
なぜに「寺子屋」??

歌舞伎ビギナーズにはまず理解不能です。
私がそうでした。
越えねばならぬ、第一ハードル。

こういう時代考証無視の作品、実は歌舞伎に多いんです。
でも今はもう慣れました(笑)。っていうか、
そういうシステムだということをわかれば何の問題もありません。

ちょっと説明しますね。

まず、
歌舞伎では「時代物」「世話物」という区別があって、
「時代物」というのは、私たちが今「時代劇」といっているものです。
江戸時代の人にとって、
「時代劇」は、平安時代だったり、室町時代だったり、戦国時代だったりします。
そして
「世話物」というのが、江戸時代の「現代劇」で、
江戸時代の風物、とくに商人、町人の生活が色濃く描かれます。
というのも、江戸時代、今の政治のことを描くのはご法度。
だから「現代劇」はホームドラマや恋愛ドラマに限られました。

今回歌舞伎座で上演されている「菅原伝授手習鑑」は時代物
江戸時代の時代劇です。

そして「時代物」の多くに、
「時代世話」という場面が挿入されています。
これは何かといいますと、
すごーーーーくひらたくいえば、
「時代劇の一部分を現代的にしたもの」

え?
そんなことできるの?
・・・とお思いかもしれません。
でもけっこう、私たちもやってるんです。

たとえば「必殺!仕掛人」シリーズ
時代劇に現代性を入れ込んだものとしては草分けではないでしょうか。

「ムコ殿!」で有名な、中村主水の家庭内でのやりとりは、
「時代劇」というよりホームドラマです。

「時代劇」は、
今と異なる空間を楽しむものでありながら、
やはりどこかで自分と共通のものを探して共感できなければ
「面白い」とは感じられません。

だから制作側は
「昔の話を昔のままにやるとわかりにくいので、
今の人がすぐにピンとくるように、何か工夫が必要だ」と
学園ドラマやホームドラマっぽくしてみたり、
テーマも、
歴史的事実がどうのこうのより、
公金横領とか、保険金殺人とか、
そのときの大事件を時代劇にアレンジしたりして
身近に感じてもらおうとする。

人気のある時代劇というのは、
少なからず「現代」の空気を含んでいるものなのです。

そういう工夫の一つとして、
歌舞伎や人形浄瑠璃では
より身近に感じられ、登場人物の立場や心情がつかみやすいように
風俗を現代的、つまり江戸時代的にしている、と考えてください。

たしかに時代考証デタラメです。

昼の部でも、
菅原道真は平安時代の恰好(直衣直垂)でいるのに、
「道明寺」に出てくる道真のお母さんは
どう見ても江戸時代の衣裳。・・・・でも・・・・

「いいんです!」

いいんです、そんなことは。
フィクションですから。つくりものですから。
泣ければ。楽しければ。わかりやすければ。

それに先ほど述べましたが、
ダイレクトに社会批判ができないくくりの中、
作者たちは「時代劇」の枠(世界、といいます)を借りて、
今そこにある問題を、たくみに描いてみせたのです。
すごいでしょ?

「でもさー、急に衣裳変わったり、時代が飛んだり、
かえって複雑になって、ついていけなくない?」

・・・と今つぶやいたアナタ!

同じこと、
現代でもけっこうしてません?

織田信長が
東京ガスのCM「ガス・パッ・チョ」で箪笥から出てきたり、
お茶が飲みたくなって「利休も呼んじゃった!」とか。

トヨタのCMでは車で高速を走っていたり、
さっき武将姿だったと思ったら、今度は洋服だったり。

桃太郎と金太郎と浦島太郎が友達で、
浦島太郎が玉手箱あけたら携帯出てきたり、

皆楽しいでしょ?
わかりやすいでしょ?

江戸の人たちも、そういう楽しみ方をしていた、ということです。

キャラクターからかけ離れていなければ、
(役の性根がおさえられていれば)
よいアレンジはオリジナリティとして評価され、
人気も出て再演が重ねられ、
そして古典になっていって今に至ります。

冒頭に申しあげたように、
「寺子屋」はとても人気のある作品。
上にいろいろ書きましたが、
この「寺子屋」の段だけで、
非常に密度の濃いサスペンスドラマになっています。
(衣裳的にも、ほぼ全部江戸時代ですし、
菅丞相は出てこないし、
いわゆる「時代劇」として普通に楽しめます)

火曜サスペンス風に言えば
「京都殺人案内・山間の塾殺人事件~元エリート校教師、新入生を殺す」
みたいなお話です。

夫婦で殺人計画を練る場面の緊張、
その後のどんでん返し、
見どころ満載です。

とても面白かったので、ぜひご覧ください!
オススメ!
レビューを明日書こう、と思ったのですが、
これは昼の「筆法伝授」を先に書かないと。
せっかくの通し狂言なんで・・・。

(だから昼を先に観なくちゃいけないのに、すみません)

レビューのほうは下旬になります。

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